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東京高等裁判所 昭和46年(ラ)1011号 決定 1973年3月20日

理由

抗告代理人の抗告理由は別紙抗告理由書記載のとおりである。

本件競売申立は、相手方(債権者)と抗告人東交産業(債務者)間の昭和四五年三月二六日付証書貸付手形貸付手形割引契約にもとづく債権担保のため、抗告人ら所有の不動産(本件記録添付目録(一)ないし(六)の建物)につき設定された元本極度額一、二〇〇万円、損害金日歩八銭二厘とする根抵当権にもとづくものであり、相手方の請求する債権は、相手方が抗告人東交産業に対し昭和四五年三月二六日貸付けた元金七〇〇万円および同年三月二七日から同月三〇日までに二回にわたり貸付けた元金五四〇万円の合計一、二四〇万円の内金一、二〇〇万円(弁済期同年八月二〇日)であることは本件記録上明らかであり、右抵当権設定の事実は抗告人らの争わないところである。

ところで、右貸付金額については、《証拠》によれば、昭和四五年三月抗告人東交産業は相手方から二、〇〇〇万円を借受けることになつたところ、当時同抗告人は北海道拓殖銀行から、本件(一)、(三)および(六)の建物に元本極度額八〇〇万円の根抵当権を設定して六〇〇万円を、(五)の建物に元本極度額七〇〇万円の根抵当権を設定して七〇〇万円をそれぞれ借り受けていたので、右借受金二、〇〇〇万円のうち一、三〇〇万円は相手方から右銀行に代位弁済する方法により貸付を受けることにしたこと、よつて相手方は同月二六日同銀行に東交産業の債務一、三〇〇万円を代位弁済して同銀行の有していた前記各根抵当権の譲渡を受け、抗告人東交産業に対しては、二、〇〇〇万円に対する三カ月分の利息として二四〇万円、手数料として一〇〇万円を差引き残額三六〇万円を交付したこと、同抗告人は相手方から右のほかに同年五月頃三回にわたり三〇〇万円、二四〇万円、三七〇万円の三口の金借をしたこと(このうち三七〇万円は相手方の自陳する同年四月二五日貸付の三七〇万円と同一の貸付金と認められる。)が認められ、右認定に反し借入金は三六〇万円の交付を受けた分と三七〇万円の二口であるとの抗告人菅田嘉幸の供述部分は措信しない。なお、昭和四五年八月一二日作成の債務承認並に弁済契約公正証書に記載された昭和四五年三月二六日貸付の七〇〇万円は名目上の貸付金額二、〇〇〇万円から代位弁済金一、三〇〇万円を差引いた差額をいうものと推認されるが、同日現実に貸付けられた金員は前記の三六〇万円にすぎなかつたものと認められる。以上によれば、本件根抵当権によつて担保される相手方の抗告人東交産業に対する貸金債権は元本合計一、〇〇五万円(前記二、〇〇〇万円に対する二四〇万円の利息及び手数料一〇〇万円中二、〇〇〇万円に対する利息制限法の規定による年一割五分の割合による三月分の利息七五万円を超える部分については元本の返済に充てられたものとして計算する。)ということに帰する。

さらに《証拠》によれば、抗告人東交産業はダイユウ電器株式会社(代表者文永哲、以下ダイユウ電器という。)に対し相手方に対する本件債務の代位弁済を依頼し、よつてダイユウ電器は相手方に対し、昭和四五年七月三〇日支払期日を同年九月三〇日とする額面三七〇万円の約束手形一通および同年九月二〇日頃支払期日を同年一二月から同四六年三月までの各末日とする額面五〇〇万円の約束手形四通を振出し交付したこと、右手形金は数回書替えられた後昭和四六年一二月頃一部支払われたこと、しかし抗告人東交産業のダイユウ電器に対する右代位弁済金の支払は全く未了であることが認められる。右のダイユウ電器から相手方に対する支払金額については、手形金額全額が支払済であるとする《証拠》は措信することができず、相手方の自陳するところによれば、北海道拓殖銀行に代位弁済した一、三〇〇万円とこれに対する昭和四五年八月二一日から昭和四六年三月一〇日までの年三割の損害金二〇〇万円および昭和四五年四月二五日貸付の三七〇万円の弁済を受けたというのである。そうだとすれば、本件根抵当権の被担保債権はいまだ全額弁済されたということができないことは計数上明らかである。

よつて被担保債権の弁済により本件根抵当権が消滅したとの抗告人らの主張は理由がない。

次に抗告人らは、根抵当権によつて担保される被担保債権は、その基本となつた与信契約が終了しないかぎり確定しないから、期間の定めのない場合は基本契約を解除し終了せしめないかぎりその実行をなしえないと主張する。しかし、根抵当権の場合であつても、抵当権者は抵当債務者に不履行のある場合はいつでも被担保債権を特定して根抵当権を実行しうることは当然であつて、あえて基本契約を解除しなければならないものではない。抗告人らの右主張は採るに足りない。

よつて本件抗告は理由がないからこれを棄却

(裁判長裁判官 菅野啓蔵 裁判官 渡辺忠之 小池二八)

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